「後戻りはしない」エイズ対策の専門家は力強く宣言した―科学ジャーナリスト世界会議の話【2】
ベッカー教授は、ケープタウン大学感染症・分子医学研究所デズモンド・ツツHIVセンターの所長であり、国際エイズ学会の会長も務めた世界的な研究者だ。「HIV」は「ヒト免疫不全ウイルス」のことで、このウイルスが感染すると免疫力が落ち、さまざまな病気にかかりやすくなって、最後は回復不能、つまり死に至る。これがエイズという病気で、1981年にアメリカで初めて確認され、その後、世界中に患者が拡大した。南アフリカは患者数が多いだけでなく、研究者も集まっていてエイズ研究の中心地になっている。
日本では、1980年代に血液製剤を使った血友病患者でエイズになる人が続出するという「薬害エイズ事件」が起きた。当時はこの病気のことがよくわからず、偏見や差別も大きな問題になった。だが、最近はエイズについての報道をほとんど見なくなった。日本での感染者数は2013年ごろをピークに減ってきている。ピーク時の感染者数(エイズ患者と、未発症の感染者の合計)は年1600人ほど。感染者がさして多くないことに加え、治療法の開発が進みエイズは「不治の病」ではなくなったことも人々の関心が遠のいた理由だろう。
しかし、医療サービスが届きにくい人たちにとってエイズはいまだに「恐ろしい病気」だ。2024年末現在、HIVとともに生きている人は世界で約4,080万人、2024年に新たにHIVに感染した人は約130万人で、エイズ関連疾患によって亡くなった人は約63万人いる(国連エイズ合同計画=UNAIDSのデータ)。