基礎研究を応援するクラウドファンディングに注目
オートファジーという、細胞が自分自身を分解(自食作用)するメカニズムを解明して、ノーベル生理学医学賞を単独(ノーベル賞は同時に3人まで授賞可能。単独授賞は、業績が極めて抜きんでていた証)で受けた大隅良典・東京科学大学栄誉教授は、受賞直後から「日本では基礎研究がやりにくくなっている」と危機感を世間に訴えてきた。
オートファジーはがんなどの病気の新しい治療法の開発につながるとして注目されているが、大隅さん自身はあくまで「細胞が持つ不思議な能力を明らかにしたい」という好奇心から酵母を材料にコツコツ研究を進めてきたという。国の方針が「競争的資金重視」と変わったために、研究者が「資金を得られそうな研究」つまり「すぐに役に立ちそうな研究」ばかりを志向するようになり、純粋な好奇心から取り組む「基礎研究」ができなくなっている、それはのちに得られるであろう大きな成果を失うことになる、というのが大隅さんの危機感だった。
現状を憂えるだけでなく自ら行動しようと、受賞の翌年、ノーベル賞の賞金をもとに「大隅基礎科学創生財団」を設立。企業などから寄付を集め、2017年度から毎年、生物学やその周辺の独創的で挑戦的な研究を募り、応募された中から10件程度を選んで2年間の助成金を出してきた。
ただし、この助成を受けるための倍率はかなり高い。2025年度(第9期)は、応募者は219人で選ばれたのは13人と、ざっと17人に1人しか通らない「狭き門」となっている。そこで、「別の門」も作ろうと財団設立10年目に新たに始めたのがクラウドファンディング型の研究資金助成だ。
今回の助成対象テーマは、「デンキウナギの発電器官が生まれるしくみ」(名古屋大学大学院生命農学研究科・飯田敦夫助教)と「しなやかに強く生きる植物の生存戦略」(甲南大学・西村いくこ名誉教授)のふたつ。助成先が最初に決まっているのがこれまでとは違うやり方で、2026年度分の研究資金として800万円を目標にスタートした。締切の5月22日までに目標額に達成しなくても、集まった分を研究資金として配分する方式だ。
大隅さんは、朝日新聞社のウェブ言論サイト『論座』(2023年で終了)に2020年6月に掲載された寄稿で、「私は最近、大学における基礎研究は国からの支援のみでは守れないのではないかという思いを強くしている。科学研究は、もっと企業も含めて社会全体で支えることが必要ではないだろうか」と書き、企業と個人からの寄付に依拠する財団を立ち上げたことを報告している。「寄付をするということは、すなわち科学に参加するという意識を持ち、科学に興味を持っていただけるということでもある。この財団が支援できる研究費は多額ではないが、(中略)すぐに成果が得られない息の長い研究、公的な支援を得にくい優れた基礎研究を支援することの意味は大きい」と続けた。
今回のクラファンは、個人から寄付を募る。科学に「参加する」意識を持つ個人を増やし、科学研究を「社会全体で支える」という大隅さんの求める姿を目指すものだと言える。
国立科学博物館は、2023年8月に1億円を目標にクラファンに挑んだ。すると締切日の11月5日までに5万6584人から9億1602万5000円が集まった。標本・資料の収集・保管に必要な光熱費や原材料費が高騰して大きな困難に見舞われている現状を訴え、「地球の宝を守れ」と呼び掛けると、想定を大幅に、いや、はるかに超える寄付が集まったのだった。
東京・上野の「かはく」には、多くの人が訪れた記憶があるだろう。親しみのある博物館が「困っているのなら」と多くの人が一肌脱いだと思われる。それは、「科学をみんなで支える」という一つの体験になったのかもしれない。
個別具体的な研究に一般の人が研究資金の一部を寄付する、というのは面白い枠組みだ。スーパーで農家さんが顔写真入りで紹介されているのを思い起こす。そういうパッケージを見ると、自然と農家さんに親しみが湧き、応援したい気持ちになる。それとこれとは別なような気もするが、似ているような気もして、このクラファンの行方をしっかり見守りたいと思う。
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